香りのDNA

07 July, 2020

香りのDNA

皆さんもご存知の通り、第一印象というものはその人の全てを語っているわけではありません。香りも同じです。香りは様々な成分が混ざってできています。最初に感じた匂いだけで、その香りを判断することはできないのです。

香りはどこでどのように感じたかによって印象が変わります。 その時の気分や、あなたがこれまでどんな経験をしてきたかという記憶が香りのイメージに影響を与えることもあります。 香りを嗅いだとき、旅行に出かけているような夢見心地な気分になることもあれば、リフレッシュし、目の前の現実に集中できることもあるのです。 

香りは、草花などから抽出された自然由来のオイルや、人口香料、アルコールなど、様々な原料が混ざり合ってできています。 香りを専門の仕事にしていない限り、匂い分子だけを見てその香りの系統や構成を想像することはできません。(例えば、「雨上がり」と聞いて思い浮かべる、湿った地面やコンクリートの香り、青々とした水っぽい香りを、分子記号から想像できる人はいないはずです!) 人工香料の技術が発達し現代に続く香水文化が花開くのは19世紀初頭からですが、その前は、香りは植物や花といった単一の天然素材から作られていました。現代では、天然香料や合成香料といった様々な要素で作ることができるようになり、その表現はますます豊かなものになっています。 

天然香料は、果物や香辛料、根、葉、種、花などの自然素材から抽出されたエッセンシャルオイルや、蒸留水のことを言いますが、全ての植物から天然香料が取れるわけではありません。天然香料が取れる植物は約200種類と言われています。 例えば、すずらんの花からは天然香料を抽出することができないので、ミュゲットと呼ばれるすずらんに似た香料を人工的に作って代用しています。 このように、もともと存在する香りを再現するだけでなく、合成香料は全く新しい香りを創り出すこともできます。自然を損なうことなく、品質の安定した様々な香りを生み出すことのできる人工香料のおかげで、私たちはより創造性あふれる豊かな「香り体験」ができるようになりました。 香り業界においては、必ずしも人工香料が有毒なものであり、天然香料が安全なものであるというものではありません。 人工香料と天然香料は単に香り分子の生成のプロセスが異なっているだけの違いであり、人工香料も自然由来の分子で生成されています。1800年代後半には、天然化合物を加工し人工香料を作る技術が化学者達よって既に生まれていました。人工香料の誕生は香りの大量生産を可能にし、香り業界全体を大きく発展させてきたのです。 

現代の調香技術では、香りをどう使いたいか、感じたいかという目的に合わせて、イメージにぴったり合わせた香りを作り出すことができるようになりました。また、様々な香料を混ぜ合わせることで、以前は表現できなかった繊細な香りも楽しむことができます。香りの可能性は無限大です。香料の組み合わせは無数にあるため、全く新しい香りが生まれることもあるかもしれません。また、同じ香りでも、匂いを感じる環境が変われば、また新鮮な印象を受けることもあるかもしれません。この自由で、変幻自在な魅力こそが、香りが昔から持つDNAなのです。